これは 金の雫の祠から 少し遠くの海のそばの町の話。
この町は 漁港があり、美味しい魚が取れて
海のそばにはたくさんの松の木が植っています。
この町の、海と山のちょうど間のあたりに
おばあさんとおじいさんが住んでいました。
おじいさんは盆栽が好きなでした。
縁側のそばにはいくつも盆栽が整然と並んでいました。
ところが1つ、手前に置かれた盆栽だけ、
ところどころ枝が切られて、残りは4本と寂しい状態になってしまっていました。
おじいさんは盆栽のそばで はげた盆栽をみながら
「はぁ・・」とため息をつきました。
「わしの寿命も、もってあと4ヶ月。寂しいのぉ・・」
おじいさんは、不治の病にかかっていたのでした。
お腹の下が痛いな・・と思って医者にいったのが 半年前のことでした。
おばあさんがお茶をもってやってきました。
「おじいさん、そんな寂しいことしないでください。さぁ、今日は何して楽しみましょうか」
おじいさんの調子にはかまわないように 元気に言いました。
「ほら、ピー助がやってきましたよ」
そうおばあさんがいうと、白い鳩が一羽、おじいさんたちのところへやってきました。
いつか、羽が傷ついて庭でうずくまっていたピー助を介抱してやった時から、
おじいさんとピー助は大の仲良しで、 こうして何かとお家に寄って遊びにきてくれるのでした。
おじいさんが餌をやろうとすると、足に何か紐がくくりつけられてることに気づきました。
「おや、どうした。いたずらかな?」
そうしておじいさんが紐を取ってあげると、よくみると それは お守りのようでした。
「金の雫」と書いてあるお守りで、持っただけで不思議と気持ちが温かくなるのでした。
おじいさんが いつぶりか ほっとした表情になると、お守りから ぴょっと雫が飛び出し、おじいさんの口の中に入りました。
「ややっなんだこれは?」
おじいさんは舐めて確かめると、まずくありません。
「ばあさんや、なんだか 嘘のように思うかもしれないんだが、体が軽くて・・なんだかひどく眠たい。今日は早めに寝ることにするよ。」
そういって一晩過ごすと、おじいさんは 何かが身体の中で変わってきているのを感じました。
そうしてちょうど1週間後、医者がおじいさんの家にやってきました。
「ややっ・・!?おじいさん、あんた何かしたかね?」と医者が聞くと、
「ど、どうしてだい?」と焦って 聞き返しました。
「まったく、全く信じられんのだが、 お腹の下にあった病の巣が すっかり見当たらないんだよ!!身体もすっかり元気のようだし・・信じられん・・」
その言葉を聞いて、おじいさんもおばあさんも喜んで、涙が溢れてきました。
2人の横で、ハゲた盆栽はほっとした安堵の表情を浮かべてたに違いありません。