ある村に、村の外からも人々が訪れる金の雫の祠がありました。
昔々、村長さんが、この村のはずれを通ると
どこからともなく金の雫が落ちてきて、
治らぬ病を治し 人生を変えてくれたことに
大変喜ばれて、金の雫をまつる祠をおつくりになったそうなのでした。
村長はたいそう喜ばれていたので、
祠を作るのと一緒に 自らの奇跡をたくさんの人に語ったところ、
「この村に降る、人生を変える金の雫」として知られるようになり、
この噂を聞きつけて
村の外からも身体や心に悩みをもっと者がお参りに来るようになったのでした。
あくる日のこと。
貧しい身なりをした女が 祠のもとへやってきました。
見ると 女の着物の裾は 泥に汚れていて、何晩も野宿をしたような様子でした。
祠を見つけると、女は手を合わせてこう言いました。
「金の雫の神様、どうか息子を長く生かせてください。
私の命は惜しくもありません。どうか、あの子を丈夫にしてあげてください。」
女は最後の言葉をいうと、自分を責めるような顔をしました。
女の子どもは、生まれつき身体が弱く、5歳になっても身体が大きくならず、
風邪をよくひき、思うように動き回れずにいました。
医者からは 長く生きられぬかもしれない、と言われていました。
お金もないので 頻繁に医者を呼ぶこともできず、困り果てていた頃、
この祠の噂を聞き、祖父母に息子を預けて、3日3晩寝ずにこの祠へやってきたのでした。
手を合わせていた女の頬に涙が伝ったとき、
遠くの方で、
ポツポツっ トトっ
と音が鳴ったような気がしました。
お参りを済ませると また女性は村へ帰っていきました。
すると、どうでしょう。
あれから3日が経ち、村へ戻ると 村の入り口で息子が元気に立っているではありませんか!
青白かった顔も血色がよくなり、心なしか 気持ちも明るくなって、ハキハキ話すようになりました。その調子で、数日前に起きた不思議なことを話してくれました。
「いつものように布団で寝ていたのだけど、
あの日は 夢で不思議な森へ行ったんだ。みんな、僕がしらない言葉をしゃべっていた。海の外だったのかもしれない。しばらくして地図をもったような人が現れて・・そうしていたら、いつの間にか金色の海に飲み込まれて、目が冷めたんだ。」
目が覚めると、これまで 大して無かった食欲を感じてお腹がなり、
身体が熱くなって動きたくなったのだとか。
金の海は、きっと金の雫の祠のことだろう、と女性は思いました。
肌が日焼けしはじめている息子の様子に、
女は心から 金の雫の祠に感謝しました。